■ 本記事ではパリで訪れることができるバンクシーマップと10作品を解説つきでご紹介します。
■ステンシルアート誕生の地ボーブールから、エッフェル塔を臨むセーヌ川の橋の下やモンマルトルの麓まで、街中に現れたバンクシーのステンシルは瞬く間にセンセーションを巻き起こしました。
■ 1968年パリで起きた5月革命【Mai 68】から50年がたった2018年、光の街に突如として現れたイギリス人覆面芸術家、バンクシーが公表したステンシルは全部で8箇所。
Contents
パリで見逃せないバンクシースポット10選
パリに現れたバンクシーのステンシルとは
ブリストル出身のストリートアーティスト、バンクシーのステンシルがフランスの首都パリで発見されたのは2018年6月20日、国連総会で制定された『世界難民の日(World Refugee Day)』。
その数日後、バンクシー本人のインスタグラムアカウントにパリに点在する一連の作品を投稿し、それらが自身の作品であることを公表。
匿名で多作なアーティスト、バンクシーのステンシルがストリートに現れるたびに、道行く人々を驚かせ興奮させました。
» バンクシー本人による作品集”Wall and Piece”【日本語版】 はこちらです。
パリのバンクシー作品所在地
■パリ4区:2 Rue des Hospitalières Saint-Gervais (メトロ①Saint-Paul ) 現存
■パリ5区:35 rue Maître-Albert (メトロ⑩Maubert-Mutualité) 現存
■パリ11区:18 passage Saint-Pierre-Amelot (バタクラン、メト⑤⑨Oberkampf) 盗難 →イタリア農家で発見
■パリ19区:41 avenue de Flandre (メトロ②⑤⑦Stalingrad) 現存
■パリ3区:13 rue de Beaubourg (ポンピドゥーセンター、メトロ⑪Rambuteau) 盗難
■パリ5区:2 Rue Victor Cousin (ソルボンヌ大学向かい、メトロ⑩Cluny–La Sorbonne) 消失
■パリ11区:9 passage de la main d’or (メトロ⑧Ledru-Rollin) 消失
■パリ16区:Pont de Grenelle (エッフェル塔眺望、メトロ⑩Charles Michels/Mirabeau) 消失
■パリ18区:rue du Mont-Cenis (モンマルトル、メトロ⑫Jules Joffrin) 消失
■パリ18区:56 Boulevard Ney (メトロ⑫Porte de la Chapelle) 建物取り壊し後不明
※ストリートアートの性質上すでに無くなっている場合がありますが現在残っているのは3箇所。
パリのバンクシーマップと作品解説
■ 【ナポレオン】41 avenue de Flandre パリ19区 – メトロ②⑤⑦Stalingrad
✔︎ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト(現存)


バンクシーのナポレオンは、移民が多く住む公共住宅の壁に描かれています。
馬に乗る指導者は、赤いマントが風でまとわりついてしまい前が見えません。
フランスの移民政策を指揮する指導者、エマニュエル・マクロンを批判しているのでしょうか。
バンククシーのナポレオンは、1801年ジャック・ルイ・ダビッドがナポレオンをモデルに描いた「ベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト」へのオマージュでした。



壁画の前では、人なつっこい移民の子供たちが楽しそうに遊んでいます。
こちらの作品はストリートビューでも確認できますが、ぜひ実物を見に行きましょう。
■ 【赤いリボンのネズミ①公式】9 passage de la main d’or パリ11区 メトロ⑧Ledru-Rollin
✔︎リボンのネズミと五月革命①バンクシー公式


バンクシーが「1968年パリの五月革命」をテーマに描いた「リボンのネズミ」のステンシル(公式版)は、出現後あとかたもなく消失。
この作品は、反ユダヤ主義者として告発されたコメディアンのデュドネ(Dieudonné)が追放された劇場(Main d’Or)のそばに描かれていました。

バンクシーは、ヒトラーをネタに笑いをとろうとしたり、激しいイスラエル批判を繰り返すデュドネに、表現者として共感したのかもしれません。

■ 【赤いリボンのネズミ②非公式】35 rue Maître-Albert パリ5区 – メトロ⑩Maubert-Mutualité
✔︎赤いリボンのネズミと五月革命 (バンクシー非公式) 現存




ミニーマウスの髪型をしたリボンのネズミと五月革命《 Mai 1968 》が描かれたのは、ノートルダム寺院やカルチェラタン地区から程近い広場にあるレストランの路地裏。
朝市が立つこの広場は、中世のパン市場が16世紀に公開処刑場となり60人ものプロテスタントが生きたまま焼かれた場所です。
1968年5月、パリの学生運動が発端となりフランス全土に広がった「五月革命」発祥の地「ソルボンヌ大学」はすぐそば。
リボンのネズミと五月革命《Mai 1968》は、バンクシー公式サイトやインスタグラムには掲載されていませんが、完成度・ロケーション・出現時期からみて本物でしょう。
(※バンクシーは偽物が描かれた時はメディアで自分の作品ではないと公表するのですが、このステンシルに対する本人からのコメントは出ていません。)
このネズミは、中国人経営の日本食レストランの壁に書かれているため、公式な認定があればレストランのオーナーは作品を売却してお金に変えるでしょう。
そのためバンクシーはあえて公表していないのかもしれません。
とにかくただならぬ雰囲気の漂う作品です。
バンクシー がインスタグラムに投稿したもう一つのリボンのネズミと五月革命《Mai 1968》は消されてしまいましたが、こちらは現存。
2020年現在、保護目的のプレキシガラスがはがされてネズミと文字を消すかのように上から落書きがされています。
消されてしまう前に是非一度見にいきましょう。

プラス・モベール(モベール広場)
五月革命の中心となったソルボンヌ大学が出来る以前は、教育の中心地だったプラス・モべール。
その名は1161年サント・ジュヌヴィエーブ修道院(Sainte Geneviève)で起きたオベール(Aubert)神父の汚職事件に由来。
中世のパン市場が16世紀に公開処刑場となり、出版社を営んでいた人道主義者エティエンヌ・ドレ(Etienne Dolet 1509-1546)ら、60人ものプロテスタントたちが生きたままこの広場で焼かれました。
19世紀になると、古着屋、椅子修理人、道化師、小川のぬかるみから拾い集めたたばこの吸い殻を取引する厄介者等…、無数の小さな取引が行われました。
19世紀に外観を変えたフレデリックソーン通りの角には、今でも古い家屋が数軒残っています。
■【ネズミとシャンパンボトル①】 2 Rue des Hospitalières Saint-Gervais – パリ4区 メトロ①Saint-Paul
✔︎ネズミとシャンパンボトル(バンクシー非公式) 現存


バンクシーがモンマルトルのふもとに残した「シャンパンボトル」のステンシルをほぼ反転させたような作品ですが、ディテールはモンマルトルの作品よりやや詳細に描かれています。
この「シャンパンボトル」は、バンクシーのインスタグラムにも公式ホームページにも掲載されていません。
しかし、作品の完成度やパリのユダヤ人街にあるイスラエル料理店の壁に描かれていることからみても、本物の可能性が高いと思われます。
バンクシ−から公式に認定されればユダヤ人オーナーにより売却されてしまうでしょうから非公表なのでしょうか。。。
現在、コルクに乗ったネズミは消失。
残っているのはシャンパンボトルのみ。↓


■ 【バタクラン】18 passage Saint-Pierre-Amelot パリ11区 – メトロ⑤⑨Oberkampf
✔︎バタクラン劇場の非常扉(盗難後イタリアで再発見→パリ警察が保管)New❗️



バンクシーがパリのコンサートホール「バタクラン」の防火扉に描いたステンシルは、2015年に起きたテロ事件への追悼としてパリ市民から歓迎されました。
2015年11月13日、テロ事件当日にバタクランの非常口をル・モンドのジャーナリストが撮影。
その時の動画をYouTubeで見ると、より深く作品の背景を理解することができるはず。
更新情報:イタリア農家で発見

2019年1月、「防火扉に描かれたバンクシーの作品」は何者かに切断され持ちさられたため現在見ることはできません。
その後、窃盗犯6人がフランスで逮捕され、あるイタリアの農家の屋根裏から「バンクシーの扉」を押収。
バンクシーが描いた防火扉のステンシルは、まもなくパリの「バタクラン」に戻ってくる予定。
» バンクシー監督ドキュメンタリー”イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ(日本語字幕版)”はこちらです。
■ 【女の子と卍】56 Boulevard Ney パリ18区 – メトロ⑫Porte de la Chapelle
✔︎女の子とナチスのシンボル・卍(施設取り壊し後不明)


ここを訪れる時はきれいな服装や目立つ格好は極力避けるべき。
そして昼間でも治安には気を付けてくださいね。
「ナチスのシンボルをピンク色の模様でおおいい尽くそうとする黒人男性の顔をした女の子」は、手にスプレー缶を持ちミニーマウスの髪形をしていました。
ここはアフリカ系難民の玄関口ポルト・ド・ラ・シャペル。
難民受付施設の壁に描かれたステンシルは、塗りつぶされて何が描かれているのか分かりません。
建物はすでに閉鎖されて工事中のため柵の中。
近隣では、難民たちがキャンプを張って暮らしています。
更新情報:建物が取り壊されて壁が消失

2020年7月に再び現場を訪れると、施設が取り壊されて広いグラウンドになっていました。
ここはパリ市の所有地なので、バンクシーのステンシルはパリ市がどこかで保護しているかもしれません。
この付近でキャンプを張って暮らしていた難民や移民たちは姿を消してしまいました。
街全体の危険な雰囲気はなくなり、治安の悪さも感じません。
■ 【傘をさしたネズミ】Pont de Grenelle パリ16区 – メトロ⑩Charles Michels/Mirabeau
✔︎傘を差したネズミとエッフェル塔


「傘をさしたネズミのカップル」がエッフェル塔を眺めているかのようなステンシルです。
バンクシーが「傘をさしたネズミのカップル」を描いたのは、グルネル橋を降りて川沿いにしばらく歩いたエッフェル塔を見渡す絶景ポイント。
車が通りかかる以外人の姿は見当たりません。
現在壁は塗りつぶされて、ペンキの塗り残しからわずかにバンクシーが描いたネズミのしっぽを確認することができます。

■ 【犬と紳士】2 Rue Victor Cousin パリ5区 – メトロ⑩Cluny – La Sorbonne【ソルボンヌ大学向かい】
✔︎犬と紳士・ソルボンヌ大学前向かい

良くしつけられた犬が、従順に骨が与えられるのを待っています。
しかし、包帯を巻いた犬の足先には血がにじんで血だまりに。。。

紳士が犬に与えようとしているのは、のこぎりで切った犬の前足の骨です。

バンクシーが描いた「犬と紳士」のステンシルは、まるで資本家と労働者との関係を表す「資本主義社会の縮図」を思わせませんか。

歩道の右側にみえるのは1968年五月革命の発端であり舞台となったソルボンヌ大学。
この作品には教育機関への批判が込められているのでしょうか。
作品はホテルの壁に描かれています。
バンクシーはなぜこのステンシルをソルボンヌ大学のそばに描いたのでしょう。
↓こちらはステンシルの本家、1980年代初頭にパリの街中でネズミをステンシルしたBlek le Ratの「His master is voiceless」という作品。
もしかしたらバンクシーは、自分のステンシルとBlek le Ratの作品とを対比させたかったのかもしれません。

現在壁は白く塗りつぶされた上に、プロパガンダポスターでおおいいつくされています。
壁の持ち主であるホテルのオーナーが、壁が盗まれるのを恐れて塗りつぶしたのかもしれません。
■ 【覆面のネズミ】13 rue de Beaubourg パリ3区 – メトロ⑪Rambuteau
✔︎ポンピドゥーセンター裏「カッターにまたがる覆面のネズミ」


1968年パリの暴動から50年。
Banksy, Instagram
現代ステンシルアート誕生の地
バンクシー本人のインスタグラム公式アカウントにはそんな言葉がそえられていました。
「カッターの上に乗る覆面のネズミ」は、と呼ばれネズミのステンシルを描いたステンシルアートの父「ブレック・ル・ラット」(Blek le Rat)へのオマージュでしょうか。
すぐそばの広場には、ジェフ・アエロソル(Jef Aerosol)が描いた巨大な自画像があります。

更新情報:パリでバンクシーのネズミが盗難

バンクシーの「カッターの上に乗る覆面のネズミ」は、2019年の9月1日、月曜午前4時頃何者かにより盗まれました。
現在は、高さ約3メートルのパネルが絵の部分だけ大きく切り取られています。
三か月前に撮影したときは、保護目的で貼られていたプレキシガラスははがされていました。
ストリートビューには盗難される前の映像がうつっています。
犯人は逮捕されましたが作品は見つかっていません。
【盗まれたバンクシーのネズミ】窃盗犯がバンクシーから指示されたと供述【バンクシーが否定】
■ 【ネズミとシャンパンボトル②】34 rue du Mont-Cenis パリ18区 – メトロ⑫Jules Joffrin
✔︎空飛ぶネズミとシャンパンボトル



モンマルトルの急な階段を降りるた閑静な住宅の壁に、バンクシーは「シャンパンボトルとコルクに乗って宙を飛ぶネズミ」のステンシルを描きました。
長い階段を上ると、すぐ近くにモンマルトルのワインを造っている葡萄畑があります。
壁が塗り替えられた現在は消失。
ストリートビューには今もネズミとシャンパンボトルの映像が残っています。
移民の危機をテーマに
儚いストリートアートを守ろうという動き
人々の関心を惹きつけて止まない覆面アーティスト、 バンクシーによるストリートへの芸術的侵略は時に多くの人の好奇心と緊張を生み出します。
今回新たな遊び場としてパリのストリートをキャンバスにえらんだバンクシーは 、これまでも政治的腐敗や社会論争をテーマに作品を描いてきました。
18区の難民受け入れ口、ポルト・ド・ラ・シャペルにある作品は、 発見後間もなく塗りつぶされましたが、「ナチスのシンボルと女の子」のステンシルが消えてしまっても、すでに世界中から支持を得ているバンクシーの人気が衰えることはありません。
模倣、再流用されたり劣化して修復される前に、バンクシーのアイロニーを含んだステンシルは、ストリートアートの宿命とも言える不安定な性質を浮き彫りにしています。
コンサートホール「バタクラン劇場の鉄製非常口に描かれた犠牲者へのオマージュ」のように、バンクシーのステンシルは破壊され、持ち去られるリスクにさらされているため、アートファンたちがプレキシガラスで保護しています。
バンクシーの作品を保護しようとする動きはパリ市からも強い支持を得て、不安定で儚く違法性があるストリートアートの存在が物議を醸しました。
» バンクシー監督ドキュメンタリー作品”イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ(日本語字幕版)”はこちらです。
パリで初のバンクシー個展
Exposition Banksy
日時:2019年6月1日(土)14時
場所:Musée du Graffiti (グラフィティー・ミュージアム)
ホームページ:https://www.arek.fr/museedugraffiti
2019年6月1日(土)14時から、グラフィティー・ミュージアム(Musée du Graffiti)がパリで一日限りのバンクシー展を開催。
snsで話題になったこのイベントは、フェイスブック上でリアルタイムにシェアされるヴァーチャル展覧会でした。
詳細はこちらの記事をどうぞ。
バンクシーのレプリカ展【The World of Banksy】

2019年6月には、パリでバンクシーのレプリカ展「The World of Banksy」開催
会期は2020年12月31日まで延長されました。
「The World of Banksy」(バンクシーとの世界展)については、【The World of Banksy】パリのバンクシー展はフェイクなのか【Paris】をお読みください。
【Banksy 2019】パリで見つかったバンクシーの壁画が一年後も残っているのか【動画で検証】
バンクシーのグラフィティーがパリの各地で発見されてから一年後。
実際に、作品が残っているかを検証して動画にしたのでごらんください。
最後に
いかがでしたか?
世界のどこかに未確認の作品があることを確信しているバンクシーのファンたちは、今現在も新たな宝探しを続けていることでしょう…。
というわけで、今回は以上となります。
» 【気軽に飾れる】バンクシーが手掛けたBlurのアルバム「Think Tank」はこちらです。
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