英ブリストルのバートンヒルに現れたバンクシーの最新作は、わずか48時間で落書きされてしまいました。
にもかかわらず、バンクシーはバレンタインデーの壁画が破壊されたことを楽しんでいるようです。
せっかく描いたステンシルが汚されて嬉しいだなんて、バンクシーはいったいどういう心境なのでしょうか?
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バンクシーが落書きをされて喜んだのはなぜ?

2月14日、バンクシーが地元英ブリストルのバートンヒルにある住宅の壁に、バレンタインデーに向けた壁画を発表。
その2日後、何者かにより上から落書きされました。
パチンコから赤い花を放つ少女をフィーチャーしたこの作品は、2月13日にブリストルの住宅の壁に現れたもので、バンクシーはバレンタインデー当日の深夜にInstagramで写真を投稿、自身の作品であることを承認しました 。
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作品を保護するために設置されたアクリルパネルは引き離されており、バンクシーのステンシルが 心ない落書きで直接汚されています。
それを知ったバンクシーは、Instagram上に「なんだか嬉しい」というコメントをつけて、新たに3点のスケッチを追加しました。
せっかく描いたステンシルが汚されて嬉しいだなんて、バンクシーはいったいどういう心境なのでしょうか?
バンクシーがオリジナルスケッチを公開
バートンヒルの作品が汚されてなんか嬉しい。
Banksy, Instagram
最初のスケッチのほうがずっと良かったからね。
理由は簡単。バンクシー曰く「最初のスケッチのほうがずっと良かったから」でした。
それだけでなく、バンクシーは2018年に自分の作品をオークション会場で細断して破壊してしたり、もっと以前には他のアーティストがストリートに描いたグラフィティを塗りつぶして自分のステンシルを上書してバトルになった過去があります。
そのせいか、バンクシーが作品への荒らし行為に怒りをあらわしたり、取り乱すことはほとんどありません。



改めてオリジナルスケッチを見ると、バートンヒルのステンシルは、バンクシーの代表作《 フラワースロウワー》の女の子バージョンだとわかりますね。

落書きされたのは始めてではなかった
しかし、バンクシーの壁画が汚されたのは今回が初めてではありませんでした。
去年のクリスマスにバンクシーが、バーミンガムで描いたトナカイのステンシルを覚えていますか?
ホームレスの男性に差し入れをする通行人とのほろ苦いショートムービーが、バンクシーのInstagramに投稿されるやいなや、自称ファンでストリートアーティストを名乗る“Hers” という人物があらわれて、トナカイのステンシルに赤い鼻を付け加えたのです。
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また、2018年にパリの18区で見つかったステンシルは、ナチスのシンボル卍が見えなくなるまで塗りつぶされていますが、作品自体は今現在も元の場所で保護されています。

2018年パリ18区
その他、バンクシー初期の作品の1つ、2001年にブリストルソーシャルクラブの壁に描かれた《 ピンク色の仮面をつけたゴリラ》(Banksy,Gorilla in a Pink Mask, 2001,Bristol)と、サウサンプトンの壁に描かれた《ノーフューチャー》(Banksy,No Future, 2010, Southampton)も塗りつぶされてしまいました。

前者ブリストルソーシャルクラブの壁画は2011年にバンクシーの作品である事を知らずに誤って塗りつぶされたのち、修復されてうっすらとゴリラの面影が浮かび上がって見えます。
バートンヒルの女の子の壁画からわずか2,5 kmほどの場所でした。
そして後者、ちょっと不機嫌そうな表情の女の子が風船を持ったステンシル《ノーフューチャー》は、故意に塗りつぶされてめちゃくちゃな状態です。

↓これが本来の落書きの姿なのかもしれませんが、残念ですよね。
壁の中央下あたりに、風船をもつ女の子の姿がうっすらとみえるでしょうか?
拡大すると分かりやすいかもしれません。
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落書きされたバンクシーの壁画は誰のもの?

バートンヒルの住民とコミュニティの反応
バレンタインデーの壁画は、バンクシーが数年ぶりにブリストルで完成させた作品の1つでした。
住民の一部は、バンクシーが放置されたコミュニティにスポットライトを当てようとしたのだと推測。
作品が汚されてがっかりしているのはバンクシーよりむしろ、バートンヒルの住民たちでした。
ステンシルが描かれた家の居住者ケリー・ウッドラフさんは、作品が現れたとき「信じられないほど美しい」と言い、週末にせまった暴風雨から作品を保護しようとしました。
バンクシーの作品は多くの訪問者を集めており、ケリー・ウッドラフさん によるとアートワークの一部として道路標識に置かれていた花もすでになくなっていたと言います。
また、家族みなが途方にくれており、壁画をさらなる被害から守るための対策を講じていると語りました。
長期的な解決策が導入される前に、保護ボックスやセキュリティフェンスなどの一時的な対策がなされるとのこと。
ウッドラフさんは「とても悲しい。彼らは皆から喜びを奪いました。私たちはこの作品を長い間、できるだけ多くの人に見て楽しんでもらいたいと思っています。」
「本当に残念ですが、不幸にもこのようなことはいつ起こってもおかしくありませんでした。」
バートンヒルに拠点を置く英国ソマリアコミュニティ協会は、破壊行為は「衝撃的」であり、「悲惨な状況を見るのは悲しい」とツイート。
バンクシーの壁画は誰のもの?
英国の法律では落書きが不動産などの壁に描かれている場合、「芸術」の物理的な部分はプロパティーの所有者に属し、その所有者はそれを合法的に保護、または消すことを選択できます。
今回のバレンタインの壁画のように、不動産が賃貸に出されている場合、落書きはその建物の外観の一部として、居住者ではなく所有者に属します。
ただし、アートワークに対する無形の権利(著作権)への所有権は、アーティストであるバンクシーに帰属。
しかし、所有権は長年紛争の対象となってきました。
2012年、Slave Laborというバンクシーの壁画がWood Green Investmentsが所有する物件に描かれて、後に取り外されてオークションで販売されました。
すると、バンクシーの壁画をコミュニティの財産であると考えた地元住民による抗議が起こりました。
ここで、法律は再び明確になります。
アーティストの意図に関係なく(バンクシーが投資会社に壁画を贈ろうとした可能性は低い)、壁画は不動産の所有者のものであることが明確化されました。
バンクシーのアートワークは、それ自体が器物損壊罪にあたるため、被害を問えるのかどうか疑問の余地がありますが、アートワークの結果として価値が高まった壁が、破壊行為によって損傷を受けたのは確かです。
所有権の問題は、今後、ストリートにさらに多くのバンクシー作品が現れるにつれて、そして土地の性質(土地のままであるか、個人的、および知的財産になるか)が争点となり、今後しばらくの間、不動産弁護士を熱狂させて激しく争われるでしょう。
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まとめ
今回の件で、バンクシーの貴重な直筆の下絵を見ることができ、内心うれしく感じている人もいるのではないでしょうか。
実際に作品の損傷はそこまで激しくはなく、ピンクのハートはポップでかわいらしく、全体像を見るとよりいっそうグラフィティーらしくなった気がしないでもありません。
そして、バレンタインデーに一度注目を集めたバンクシーのステンシルが、上から落書きをされたことによって世界で二度注目されました。
もちろん、芸術性の高いバンクシーの作品の上から、直接落書きをするなんて残念なことをするのは絶対にやめて欲しいと思います。
でも、これがストリートでこそ生きる、ストリートアートの宿命ではないでしょうか…。
もしかしたらバンクシー自身も、ステンシルが額に入れられてリビングに飾られるよりも、ストリートで生きることを望んでいるのかもしれません。
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