Contents
詩人ランボーの酔いどれ船
フランスの詩人アルチュール・ランボー(Arthur Rimbaud)の詩「酔どれ船」(Bateau Ivre)は、サンシュルピス教会( Eglise Saint-Sulpice )からそれほど遠くないところに錨を下ろしました。
財政局 (かつてのSaint-Sulpice神学校)に面したフェルー通り ( rue Férou)の大きな壁一面に、2012年6月新たに加わった全100行からなるこの長編韻文詩「酔いどれ船」が”右から左へ”筆で書かれているのはどうしてでしょう?
また、この通りにはどんな由来があるのでしょうか ?

詩の複写はオランダ大使館支援のもと、カリグラファーWillem Bruins が手書きで完成させました。

壁にはこんな言葉が添えられています。
この詩は右側から始まる。
サンシュルピス広場(1871年)の反対側にある古いカフェの1階から17歳のランボーは初めて「酔いどれ船」を朗読した。
私たちの想像では風がサンシュルピス広場(Place Sulpice)から右へ、フェルー通りへと吹いていた。
TEGEN-BEELD財団 – オランダ、ライデン – 2012年6月14日
1871年9月、ランボーはサンシュルピス広場に面した今はなきワイン商Fernand Denogeant が営むレストラン1階(日本式2階)で、弱冠17歳にしてこの詩を朗読し高踏派たちをあっと言わせます。
読み上げられた詩はヴェルレーヌが筆記しました。

当時レストランがあった場所、 ボナパルト通りとヴィユ・コロンビエ通りが交わる角の建物には、2010年にできた記念プレートが設置されています。
フェルー通りの歴史

フェルー通りは約500年以上前(1517年より以前)から存在し、通りの名前は土地の所有者Etienne Ferouに由来。
当時は現在のサンシュルピス通りまでのびていました。
1994年、7番地にあるディレクトワールスタイル(新古典主義建築)の家の場所に建物を建てようとした開発者に出された建築許可は、 「建物の外観が周囲との調和を損なう」という理由でパリ行政裁判所によって取り消されました。
現在ここにあるのは、目の覚めるような美しいファサードです。
芸術家や文豪から愛されたフェルー通り

画家で写真家、彫刻家、ダダイスト、またはシュールレアリストとして知られ映画監督も務めたアメリカ人芸術家のマン・レイ( Man Ray )は、1951年から1976年に亡くなるまで妻のジュリエットとフェルー通り2番地bisのアトリエに住んでいました。
マンレイのアトリエは今もほぼ変わらない外観が残されています。

マンレイのアトリエの隣、 4番地の邸宅には詩人ジャック・プレヴェール( Jacques Prevert)が幼少期に両親と暮らした屋根裏部屋があります。

ジャック・プレヴェールが幼少期を過ごしたアパートの屋根裏

そして、アメリカ人ノーベル賞作家アーネスト・ヘミングウェイは6番地のLuzy邸に住んでいました。
17世紀末に建てられたこの邸宅は、今では歴史的建造物に登録されていて、ここ、フェルー通りはヘミングウェイがパリ時代を回想した遺作「移動祝祭日」の中にも出てきます。

また、詩人ギョーム・アポリネールも亡くなるまでこの通りに住んでいました。
アレクサンドル・デュマの小説「三銃士」の登場人物アトスが小説の中で住んでいたのもここ、フェルー通りでした。
風情ある美しい路地裏へ

セルヴァンドニ通り
ランボーの詩が書かれた壁の向かいにあるサロン・ド・テ《Pierre Geromini》の角を曲がって、もう一本裏手にある美しい路地 、セルヴァンドニ通り ( Rue Servandoni ) まで歩いてみましょう。
フェルー通りよりさらに古く15世紀から存在するこの通りも、中世の面影が残りとても静か、サンジェルマン通りの喧騒が嘘のようです。
私はこの通りを訪れるたび、石畳とアパルトマンの高い壁に囲まれたこの路地裏の美しさに魅せられます。
ここセルヴァンドニ通りにも、「三銃士」(アレクサンドル・デュマ著)の主人公ダルタニャンが12番地(旧 7, rue des Fossoyeurs)に住み、
ヴィクトル・ユーゴーが1862年に執筆したロマン主義小説「レ・ミゼラブル」の中で美しく成長したコゼットと愛し合う若者マリユスが暮らしていたのも、この通りでした。

ということで、本記事では名だたる文豪から愛された二つの通り、
ランボーの酔いどれ船が壁に複写されたフェルー通りと詩の由来、そしてすぐ隣のセルヴァンドニ通りについて紹介しました。
二つの通りはリュクサンブール公園のすぐそばにあるのですが、こういった路地裏を散策してみるのもなかなか癒されます。
意図的に景観が守られていて、外の世界とは断絶されたような雰囲気が、日常を忘れさせてくれるのかもしれませんね。